とあるお題サイト様で三題噺のネタを漁って、作成したものです。
お題は「泣く 海岸 香辛料」
それを念頭において読んでみてください。




―――世界を上から眺めてみると、世界の見えていなかった一面が見えるのかもしれない。
ずっと昔、まだバウルに乗っていなかった頃。そう思ったことがある。だから、私は里の端から世界を眺めてみた。
世界は、どこまでも広くて、どこまでもきれいだった。それは、大自然の壮大さに対する感情でもあり、生命の力強さに感嘆した感情でもあったのかもしれない。
私が彼を最初に見たときに思ったこと、それも、きれい、という気持ちだった。男性に向ける感情にしては不釣合いなそれ。だが、私は彼を見てきれいだと思った。
その流れる黒髪も、透き通った黒い目も。生命の力強さが感じられた、のかもしれない。
だが、そのときは彼のことなんか全然気にしてなかった。そのとき気にしていたのは魔導器のことだけ。
その後、牢屋で、彼と一緒になって、その後凛々の明星のみんなと会って、興味が魔導器以外にも向けられた。そのときから、なんとなく彼を意識していて、それからずるずるここまで来ていて……

「ほんと、どうしたものなのかしら」
「ん?ジュディ姐?どうしたのじゃ」

私のつぶやきを聞いて、横にいたパティが首を傾げる。私はなんでもないわ、とだけ答えると心の中でそっとため息をついた。なぜため息をつくのか、そう問われたら、私は迷いなくこう答えるだろう。
ユーリ・ローウェルがフレン・シーフォと仲がよすぎるから。それに尽きる。
今だって、パーティーの最前列で――――

「なぁユーリ、僕の料理のことなんだが……」
「おまえの料理っ……な、なんだよ?悪いが、俺は食わないぞ」
「いや、そうじゃないんだ。あの、その、僕はもっと料理がうまくなりたいんだ。だから、ユーリに教えてもらいたいな、と」
「俺にか?」
「いや、だめなら、いいんだが……」
「……俺は甘いものくらいしか作れないぞ?」
「ありがとう!ユーリ」

……ある意味、いちゃいちゃしすぎて殺意すら沸くわね。なにかしら、これ。
まぁ、ようするにこの状況についてイラついているようなもの。
横でリタとエステルも―――

「リタ、見てください!あそこに花が咲いてますよ!」
「あ、ほんとね。赤い花だわ」
「まるでリタみたいですね。かわいい」
「なっ……何いってるのよ!」

基本的にこんな感じ。空気があの周辺だけピンクなのよね。正直、ユーリとフレンより酷いと思うわ。
今バウルを使わずに歩いているのだって、バウルを使ってるとそのピンク色の空気があたりを埋め尽くすから。
まぁ、おじ様も―――

「はーぁ、大将死んじゃったしなぁーどうしよ。大将な、道踏み外さなければいい人だったのに……ね、ジュディスちゃん。そう思うでしょ?」
「そうね、おじ様」
「だよねぇ。ジュディスちゃんもそう思うよねー」
 
毎日のように大将大将、と……意外と未練たらたらね。
とまぁ、今は気温がただでさえ高いのに、今このみんなの状況もあつあつで、すごく大変だったりするのよ。
あら、話がいつの間にかにずれてたわね。まぁ、ようするに、なにがいけないのかというと……私はユーリが好きだけど、ユーリはそれに気づかないし、ユーリはフレンにぞっこん、というわけ。
ほんとうに、どうしたものかしらね。諦めるか振り向かせるか、の二択しかないわよね。

「ああ!見て!」
「ん?なんだ、先生」

カロルが目の前を指差す。そこに広がるのは海と砂。

「あそこ、砂浜だよね!?」
「うわぁーほんとですね」
「ん?なに?泳げるの?」

エステルとリタが喜びを顔に浮かばせて砂浜まで走る。すると、ユーリとフレンも走り出した

「フレン!遠泳勝負しようぜ!」
「いいね!やろうか」

私より年上の二人までノリノリ。楽しそうね、ほんとに。
まぁでも、暑いのを冷やすためにも海に入るのは悪くないかもしれないわね。私も海のすぐそばまで近寄る。そして、海に手を浸すと冷たさが体を走る。暑さが幾分か和らいだ。

「私も入ろうかしら」
「お、ジュディスちゃん水着になるの?おっさん楽しみ」
「今回はおじさま倒れないでね?」
「げっ……ジュディスちゃん知ってたの?」

おじさまが驚きながら一歩後ずさる。やはり、おじさまは私が気づいてたの知らなかったのね。まぁ、ここはごまかすほうが面白いかもしれない。

「さぁ、なんのことかしら?」
「ジュ……ジュディスちゃん……」

そういうおじさまは放っておいて、私は木陰を探して水着に着替える。黒いビキニ。私は結構気に入ってる。
とりあえず海に入ると冷たくて、気持ちよかった。少し泳いだあと、周りを見てみると、他のみんなも各自で泳ぎ始めている。ユーリも、フレンと遠泳勝負に興じているようだ。
なんとなく、一人でいたくて……力を抜いて体を浮力にまかせる。世界が、ゆらゆらと揺れる。
波が来て、顔にばっとかかった。とっさに起き上がるが、少しだけ海の水を飲んでしまったようで、口の中がしょっぱかった。
塩の味―――涙の味と、一緒ね。


「おーいみんなぁーご飯を作ったよー!」

しばらく海に浮かび続けていたら、フレンのそんな声が聞こえた。ご飯、フレンが作ったのかしら。フレンが作った料理は、正直、おいしくない。
最近はまだましになってきているのけど……失敗は結構多い。

「フレンが作った割には結構おいしそうだぞー」

 ユーリのそんな声が聞こえる。ユーリがそういうなら、まぁ、いいかしら。
 私は海から上がって、用意された料理を見やった。鼻を香辛料の特徴的な香りがついた。

「カレー、ね。たしかに見た目は普通ね」
「そうかな?まぁ、ユーリに手伝ってもらったから」

 ユーリに、その言葉にちょっと引っかかりを感じる。何かを言おうとした。だが、その何かを言う前にユーリがカレーを差し出してきた。

「ほらよ。食べろって」
「ありがとう。いただくわ」

ユーリに渡されたカレーを頬張ってみる。少し甘めのカレーだった。この甘さはユーリの趣味ね。ユーリは甘いもの好きだから。ユーリがカレーを甘くしてる光景を想像してみて、そんな光景がほほえましくて、つい笑ってしまった。

「ん?どうした、ジュディス」

ユーリが、私の笑ったのを聞いて尋ねてくる。

「これの味付けはあなただろうな、と思ったのよ」
「……よく、わかったな」
「甘いもの。ユーリの味だわ」
「そう、なのか?」
「そうね。ユーリみたいにやさしい味。子供にもぴったりな味ね」
「どういう意味だよ、それ」

ユーリが訝しげに聞いてくる。私はそっと意味ありげに微笑んでみる。

「さあ、どういう意味かしら」
「なんだよ……まったく……んじゃ、残さず食えよな?俺はおかわりしてくる」

わかったわ、と返すとユーリはそそくさとカレーのなべに近づいておかわりをする。
 
 そう、ユーリはやさしくて、このカレーみたいに甘い。だから、私はそれを食べてみたいけど、ユーリはフレンのものだから……
それをわかっている私は、誰にも気づかれないようにそっと涙を流す。
 こんな感情、誰にも気づかれなくていい。だけど、だけど、この感情を忘れることなんてできそうにないから。
 だから、その感情を向ける先は涙で、悲しみにくれるしかない。
 
 
 ああ、あなたが手に入れば私は満ち足りるのに―――――



あとがき
これは、文芸部の部活で書いてみたものです。
暇つぶしにはなるかな、と思って書いたものの、ずいぶん悲しい話になりました。
結構こういう展開は好きなのです。
正直言えば、続きを書けば、ハッピーエンドにはできると思います。その展開のネタも頭の中に用意できてます。
しかしながら、これを続かせるのも微妙かなぁ、とも思ってます。どうなりますかねぇ……
とりあえず、私は結構TOV大好きなのです。ジュディちゃんちょーかわいいです。(




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